カナディアンライフ

カナディアンライフ働く母さん、カナダ子育て奮戦記 その14  By Yasuko Garlick(ガーリック康子)

外国語と音楽


外国語と音楽

    前回のエッセイの中で、赤ん坊の言語習得について触れた。その最後に、発音される音の聞き分けについての、私なりの理論について書くと言った。それは、理論というには烏滸がましいが、次のようなものである。
    これまでの私自身や友達の英語学習の経験や、チューターとして英語を教えている経験から、「音感」と「発音」に深い関係があると感じている。定期的に生徒さんに教えるようになるまでは、漠然としていた理論だったが、今ではかなり確信がある。ただし、誰かがもう既に立派な論文にしてしまったかも知れないけれど。

    教えてきた生徒さんの中で、発音が良かったり、発音の聞き分けが上手い生徒さんに、何か楽器が弾けるか、歌やカラオケが上手いと言われるかと尋ねてみる。そうすると、これまで百発百中。楽器は弾けないが、歌やカラオケが上手いと言われる、という生徒さんが多い。歌が上手いかどうか自分ではわからないという人でも、楽器が弾ける。

外国語と音楽    歌を歌うには、耳で聞いた歌の中身、つまり、それぞれの音符を正しく再生できなければ上手くは歌えない。音に対する感覚が鈍いため、音符が聞き取れない人が同じ歌を歌っても、正しい音で歌えないから同じ歌には聞こえない。自分の音が外れているかどうかもわからないので、「音痴」と呼ばれることになる。
    ところで、「音痴」について、そういうことかと実感した体験がある。去年学校に通い始めるまで、市のプログラムの歌のクラスに通っていた。最初のレッスンの時に、講師の先生が、楽譜が読めるか、歌のレッスンを受けたことがあるか、合唱団で歌ったことがあるかなど、音楽に関するいろいろな質問をする。すると、楽譜が読めないという人が思ったより多い。その中に、楽譜が読めない代わりに、耳で聞けば上手く歌える人がいる。この人たちは「音感」が鋭いのだと思う。でも、やっぱり歌えない人もいる。こちらの人たちは、「音感」が鈍いのだ。そういう私はと言えば、テレビのオーディション番組に出るほど歌が上手なわけではない。けれども、とりあえず音符通りに歌えるし、自分の音が外れている時はわかる(と思う)。

    さて、クラスが始まって暫く経ったある日、新顔が増えた。彼女は私の隣に座った。立って、発声、スケールの練習をしていた時はまだ良かった。ところが、歌を歌い始めた途端、ビックリしてしまった。時々音が外れる、というような中途半端なものではない。確実にすべて半音ぐらいズレている。あまりきれいにズレているので、隣で歌っている私の音程まで狂いそうになる。彼女には、確実にピアノの音が聞こえていなかった。レッスンの後、いつもは歌い終わってスッキリするのに、その日は却って疲れが出た。脳ミソが疲れてしまったのだろう。次のレッスンからは、申し訳ないけれど、彼女の隣には座らないようにした。多分、彼女は外国語が苦手だと思う。

外国語と音楽    歌を歌う時、聞いた音を再生しようとする。外国語を話す時もまた同じ。ということは、音感が鈍い人が聞いた音を再生しようとしても、出てきた音は同じ音にはならない。ただ、外国語の場合、聞いた音を発音するための筋肉の動きも関わってくる。聞こえるけれど、筋肉を上手く動かせなくて発音できない、という場合もあると思う。実際、自分の発音は間違っているのはわかっているのに、正しく発音ができないという生徒さんがいる。そうなると、あとは口の周りの筋肉を鍛え直すしかない。これがまた難しい。日本語と英語のように、言語体系が全く違う場合、使う筋肉も違う。例えば、「r」と「l」の発音は日本語にはない。どうしてもラ行の発音になってしまう。このふたつの音を発音する時に、舌の位置の違いがわかると発音し易くなる。ある程度理屈がわかると、闇雲に自分なりの方法で発音するより上手くいく。ただし、耳で聞いて真似をするのは発音だけではない。イントネーションやリズム、強調の仕方なども真似し、大袈裟と思うくらい大きく口を開けて発音する。そうすると「らしく」聞こえてくるのだ。そこから、外国語上達の道が開けてくると思う。
と、ここまで勝手な理論を展開してきたが、皆さんはどうお考えだろう。 言語学の専門家と協力して、論文を発表する日はやってくるだろうか?

Yasuko GarlickYasuko Garlick(ガーリック康子)

おもに翻訳、通訳、チューターを生業とする2児の母。夫はカナダ人。
数カ国に滞在後、カナダ在住6年目。
最近、カレッジに通い始め、次の目標に向けて勉強中。



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