カナディアンライフ
カナディアンライフアイウエオな毎日 その14 By Michelle Igarashi

つなさは寄せて返して波のよう」


せつなさは寄せて返して波のようすでにブログでご存じの方も多いか と思いますが、看護師として、この未曽有の災害にじっとしているのが辛かった私は、MOMの参加者皆様のご協力で11日間、看護師ボランティアとして宮城県亘理郡山元町の救護所にいって働かせていただくことができました。
山元町は町の半分が津波にさらわれた場所です。救護所は山元町役場の敷地内の保健センターにありました。この役場の場所は高台になっていて、同じ場所に公民館、民俗資料館、ふるさと伝承館、青少年センター保健 センターがありますが、すべて避難所になっています。保健センターは高齢者、少しお体がご不自由な方が避難所として使われており、救護所として病気やケガの診察にもあたっています。

救護所の医師は、4日交代で四国九州の病院からおいでになっています。私たち看護師は4人常駐でおもに夜勤朝番をおこないます。ボランティア看護師は短くて4日、長くて2週間弱滞在なの で、すべての避難者さんと交流することはとても難しいのですが、それでもご不快を与えないように笑顔を絶やさず、挨拶をしっかり、言葉使いに気をつけて接することができるように心がけていました。被災地に行くまでの道中、仙台駅などはまったくにぎやかで、多くの方 が普通に行き交い、まるで都会の繁華街と同じで、被災の影も感じられません。
よくよく見れば、古い建物に亀裂があったり、屋根瓦が落 ちてブルーシートで覆われた住宅もたくさんあるのですが、一見普通にしかみえません。被災地に派遣されてゆく私たちのほうがよごれて もいい格好で、大きなバックパックやかばんに食料や水、寝袋をいれて「ふぅふぅ」言いながら歩いているのがかえって目立ってしまいま す。救護所も一見どの建物も敷地内もきれいで意外な感じがしましたが、高台から少し降りると、まるで線を引いたように景色が一変しま す。

せつなさは寄せて返して波のよう まさに、地獄と天国の線引きのごと く、片方は美しくのどかな田園風景であり、片方は津波にさらわれ、延々と更地になってしまっています。「ここからは海は見えなかったのよ」、と言われた場所からはっきりと水平線が広がって見えるのです。その手前にあったものが全て無くなってしまったから。泥の更地の中に沢山の方の思い出が 眠ったままになっています。いまだに人の手が入っていない場所のほうがまだまだ多いのです。そこにはまだたくさんのご遺体が眠ってい るはずです。たしかにそこに家があった、人々の笑い声があった、夢があった、そのかけらがあちこちにちらばっています。
持ち主のわからないアルバムがそっ と脇に置かれていました。誰かが見つけておいたのでしょう。泥だらけになった写真には楽しそうな笑顔が写っています。この写真の方々 はご無事でしょうか。被災地の写真をなんどもNEWSやネットでみました。で も、自分の目で見るそれはまったくちがいます。延々と何も無くなっているのです。

日本にも春はやってきています。被災地にも、津波に耐えた桜が花をひらかせています。被災された方にとっては、季節を味わうどころではないとおもいますが、せめて、ふとしたときなぐさめになってくれたら、と願います。

ぽつんぽつんと建物や家も残っては います。でも、中は何もありません。枠だけが残った、家の屍です。
町がまるごと死んでしまった。なにもかも、なにもかも、です。見つめているだけで涙があふれてしまいます。 今回の災害は阪神の時とは異なり、 怪我は少ないと聞いています。津波によってはっきりと生か死かの二つに一つに分けられてしまったのです。

せつなさは寄せて返して波のよう 山元町の避難所には千数百人がおられます。子どもたちの笑顔もありました。みなさん、あかるく挨拶してくださいます。避難者さんどうし、仲良く助けあっていらっしゃい ます。皆さん、とても落ち着いていらっしゃいますし、笑顔もたくさん見受けられます。でもその心はどれほどの苦しみを押さえていらっしゃるのでしょうか。たぶん限界域を超えていらっしゃるのは確かなんです。薄紙一枚で押さえて暮らしておいでなのが笑顔のそこから感じるのがつらくてなりませんでした。

せつなさが毎日押し寄せてくるのです。何かをしたいと思って出かけた私たちがわかったこと、自分の無力さです。何も出来ない。何も救えない。おうちのことも、ご家族のことも、仕事のことも、何も何も聞けません。お話ししてくださることを静かに受け止めるしかできません。苦しみを解決して差し上げることはできません。なにかができると思ったことはおごりにすぎません。ごめんなさい、の思いを抱えて手をとって共に泣くことしかできなかったことをここでお伝えします。

それでも、行ってよかった。行ったからこそ学ぶことがたくさんありました。行ったからこそこれから何年もかかる復興に支援をつづけたいと誓うことができます。
真実を知ること、その機会を与えて くださった皆様に心から感謝いたします。


Michelle Igarashi Michelle Igarashi
カナダ在住の日系人の皆様のための医療アドバイス、妊娠、出産のサポート、産後のケア、母乳マッサージ、授乳指導、ベビー検診、育児指導、離乳食指導、応急処置クラスなどを随時開催しております。

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