カナディアンライフ

カナディアンライフ働く母さん、カナダ子育て奮戦記 その27  By Yasuko Garlick(ガーリック康子)

お生まれはどちら? 


お生まれはどちら?

    私は、中学に上がるまで、子供時代を日本のあちこちで過ごした。「出生地」は東京だが、国家公務員の父の転勤で、その後、日本国内を何度も引っ越した。父が単身赴任をするようになるまで、覚えているだけでも6回引っ越している。幼稚園は3園、小学校は4校通った。それぞれに思い出はあるものの、いつも2〜3年で引っ越してしまうので、「幼なじみ」と呼べる友達はいない。最後に通った小学校は、半年で卒業となった。小学校6年間の最後の半年を過ごしただけなので、あまり実感のわかない卒業式だった。だから、生まれはどこかと聞かれると答えに困る。「出身地」と呼べる場所がないので、仕方なく状況を説明することになる。いつものことなので慣れてはいるが、結構面倒だったりする。一番長く住んだ所を「出身地」と言えばいいのかも知れないが、それも何だか違う。

お生まれはどちら?    入学した東京の小学校から、小学校3年の時に初めて九州地方に引っ越した。それまで、東京と関西地方にしか住んだことがない。「標準語」である東京の言葉はとりあえず問題ない。関西弁についても、母が関西の生まれなので、県によりそれぞれ少しずつ違うものの、違和感なく理解できていたと思う。ところが、九州では言葉が全く違う。イントネーションやアクセントは元より、使われる単語そのものが違うことがある。だから、知らないと全く理解できない。まるで外国語である。しばらくすると分かるようになったが、耳が慣れるまで一苦労である。それに、話す言葉がみんなと違うと、「いじめ」とまでいかなくとも、からかいの対象になる。特に、都会から離れるほど、この傾向が強いと感じた。言葉だけでなく、文化的な習慣や風習、人間関係に対する考え方も異なる。特に、子供に対する大人の扱い方が違うことを肌で感じた。それを顕著に表す、一生忘れられない出来事がある。もう時効をとっくに過ぎているので、書いても構わないだろう。

    ある日、私を含むクラスの何人かが先生に怒られた。少ない人数ではなかった。怒られた理由は全く記憶にない。罰として、クラスの前に立たされ、先生に両方のほっぺたを平手で殴られた。その地域では「往復ビンタ」と呼んでいた。痛みよりも、生まれて初めて人に殴られたという事実に大きなショックを受けた。大人は子どもを守ってくれるものだと信じていた私にとって、その後に感じた先生たちへの不信感、殴られたことへの屈辱感は、それまで私が経験したことのない気持ちだった。同じように殴られた子たちの家ではどうだった知らないが、私は一度も親に殴られたことがない。それをいきなり赤の他人に殴られたのだ。当時その言葉は使われていなかったが、これこそ「トラウマ」である。ところがその学校では、子どもを殴るのはその先生だけではなかった。今こんなことをして明るみに出れば、即、保護者たちから苦情が出て、最終的には教育委員会に報告され、当事者の教師は免職になるだろう。こんな行為がまかり通っていたということは、それが当たり前だったからに違いない。

    「出身地」と言えば「県人会」。日本の国内外を問わず、「県人会」というのが盛んなようだ。文字通り、同じ都道府県出身の人が集まる会である。こちらでも、地域で出版されている無料の新聞や雑誌に、メンバー募集の広告が載っている。実際に県人会のイベントが記事として取り上げられているから、県人会は結構盛んなのだろう。それらの記事によると、持ち寄った郷土料理を食べたり、心置きなく方言で話したりして、「親睦を深める」らしい。その地域に縁がある人もメンバーになれる会もあるようだ。それでも、よほど繋がりが深くないと、話について行けないと思う。例えば私のように、子ども時代の2〜3年を過ごしただけでは、話はほとんど合わないだろう。大体、昔のこと過ぎて、私自身の記憶も定かではない。

お生まれはどちら?    「出身地」はないが、私にとって「引っ越し」は当たり前だったから、今となっては特に寂しいとも思わない。ただ、「幼なじみ」とか自分の「田舎」のある経験もしてみたかったとは思う。しかし、私が今、気に入った所なら、特に住む場所にこだわらないところは、きっと引っ越しを重ねて培われた順応性の為せる技かもしれない。だから、生まれた土地から一度も出たことがないという話を聞くと、それが却って不思議に思えてしまう。

Yasuko GarlickYasuko Garlick(ガーリック康子)

主に翻訳、通訳、チューターを生業とする2児の母。夫はカナダ人。
数カ国に滞在後、現在カナダ在住7年目。
只今、何か新しいビジネスを始めようと模索中。。



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