ときどきお産の立ち会いをさせていただきます。
陣痛に耐えているお母様の苦しみはだれにもかわってあげることはできません。
しばらくの間は、お母様の頑張りと、ご家族の不安とに病室の中は不思議な緊張感に包まれています。
何時間、ときにそれ以上の長い時間を耐え、赤ちゃんが誕生した瞬間、 病室の中は大きな喜びと安堵でいっぱいになります。なんども経験している医療スタッフも、その時には新しい感動に包まれます。
赤ちゃんはすぐお母さんのお腹の上にのせられます。
はじめての体二つになっての対面です。何時間も苦しい思いをし、痛みを耐えたあとなのに、お母さんの誇らしげで、美しい笑顔は最高です。付き添ったご家族、お父様の目にも涙が浮かびます。
わたしはよく、覗き 込むお父様の指を赤ちゃんの手のひらにもってゆきます。そうすると赤ちゃんは小さなてのひらをきゅっとすぼめてお父様の指をしっかりと握ります。その力のしっかりさにお父様は感激されます。少し振っても抜けないくらいしっかり握ります。
短いけれど、赤ちゃんにとっては長い長い狭い道のりを、全力で必死に出てきた赤ちゃん、それなのに大きな声を出せる赤ちゃん、握る 手の力は生きる力の証です。
こ んなに小さな体なのに、赤ちゃんは大きな大きな命の力を私たちに見せてくれます。
それだけではなく、大きな喜びを与え、この生命を守る新しい使命を強く実感させてくれます。
生きる素晴らしさ、命の尊さ、強さを赤ちゃんは小さな体で、ただそこに存在するだけで私たちに教えてくれます。
私たちに小さな体に秘めた大きな力で生きる力を与えてくれるのです。こんな素晴らしい経験をなんどもさせていただける私はかなりの果報者かもしれませんね。
自然界の中には小さきものがたくさんあります。
一瞬で壊してしまえるほど小さなもの、でも、底に秘められた大きなパワーでこの世界はできています。
形も値段も見た目も関係ありません。見栄や強がり、持っている持っていない、成績も身分も関係ありません。
ほ んとうにこの世で大切なもの、それは純粋で小さな小さなもの、されど大きく輝き、だれもが生かされる光。目の前にあるものを自然のまま見つめてみる、余計な知識や情報に惑わされないで、素直に受け止めてみる、そうすればもっともっと真実がみえてくるはずで す。