カナディアンライフ

カナディアンライフ働く母さん、カナダ子育て奮戦記 その28  By Yasuko Garlick(ガーリック康子)

ミュージカル 


ミュージカル

    驚いた。小学生がここまでやるとは思わなかった。会場は拍手喝采。スタンディング・オベーションもあった。みんな、本当によく頑張った。

    子供たちが通う小学校の全校生徒が、ミュージカルを演じた。「キャッツ」や「オペラ座の怪人」を書いた、作曲家のアンドリュー・ロイド・ウェーバーと、作詞家のティム・ライスのコンビによる、「ヨセフ・アンド・ザ・アメージング・マルチカラー・ドリームコート」。70年代に日本でも一世を風靡した、オズモンド・ブラザーズのダニー・オズモンドも主役を演じた有名なミュージカルで、かなり本格的である。

ミュージカル    ミュージカルの講演会場は、地元のアートセンター。音楽、美術、演劇のクラスを開講したり、発表会や劇が行われたりする所で、界隈で知らない人はいない。学校の体育館の舞台で演じるのとはわけが違う。観客がチケットを購入して入場する、本物の劇場である。子どもたちの家族、友達、(チケットを買わされた?)親の知り合いがたくさん観に来た。確かに内輪の催しと言えばそう言えるが、一般公開した3回の公演はほぼ満席。

    出演者は、メインキャストを含め、コーラスもすべて小学校の生徒たち。ちなみにうちの娘たちも、ヨセフの兄弟8人のキャストとして出演。大道具・小道具製作には、少し大人の手と地元の高校生の手を借りたが、それ以外すべて子どもたちの手による。大道具製作の材料や衣装用の生地などは、地元の会社や団体からの寄付。資金援助をしてくれた団体もある。洋裁を生業にするお母さんが衣装製作を担当。メーク担当もお母さんたち。(実は私も担当のひとり。)舞台監督は音楽の先生。音楽を担当した10人編成のオーケストラも、父兄や音楽の先生の知り合いが集まったボランティア。大道具の移動には教頭先生も校長先生も手を貸す。まさに、学校を挙げての一大公演である。

    9月に新学期が始まってから、(一応)オーディションをしてメインキャストが決まり、その後、メインキャストはひたすら練習。20曲以上の歌詞を覚え、ストーリーと自分の出番を把握する。朝練が週2回、昼休みも週2回の練習。コーラスを行う残りの生徒たちも、音楽の時間に練習。他にも学校行事やクラブ活動があるので、子供たちは忙しい。途中かなり疲れも見えて、練習が続けられるのかと心配にさえなった。

    この間、大道具担当の生徒たちは、舞台のセットや背景を製作。衣装製作を担当したお母さんは、既成の型紙をアレンジして試作品を縫った後、メインキャストのサイズをひとりひとり採寸して縫う。ヨセフの虹色の衣装は、普通に縫ったもの1着と、エピソード中で服が破れたように見えるように、マジックテープを使ったものを1着。こうして、いろいろな製作が同時進行する中、チケット販売やプログラム作成・印刷も始まる。本番1ヶ月前は、ほとんど毎日練習。子供たちの緊張と期待が伝わってきて、こちらまでワクワク、ソワソワしてくる。

ミュージカル    このミュージカル上演で最もお金がかかったのは、上演するために支払う上演権・演奏権使用料。有名なミュージカルなので、かなり高くついた。次に、トラックのレンタル代。体育館に、実際の舞台通りにアレンジしてあった大道具を、劇場まで移動させなくてはならない。
これが思ったより嵩張るので、あまり小さなトラックでは役に立たない。それから、メインキャストが劇場に向かった後、残りの全校生徒を一度に移動させる足代。ひとクラスだけでどこかへ行く場合、父兄が手分けして子どもたちを送迎する。スクールバス(運転手付き)を借りる場合もある。しかし、小さい学校でも、全校生徒となると一度に150名ほどになる。スクールバスは、ここ数年で大きく値上がりしているので、全校生徒を移動させるには高くつき過ぎ、予算からは到底出せない。そんな切羽詰まった状況で、学校付きのベテランの秘書さんが、手当たり次第に、ツアーバスやバンのサービスを運営している会社に交渉した。
その結果、バンクーバー地域の公共交通機関であるバスやスカイトレインを運営する会社が、一回限りという条件付きで、バンクーバーのダウンタウンを走る、あの二両編成のバスを一台、無料で貸し切ってくれることになった。(私は既に劇場に向かった後だったが、あのバスが学校の前に横付けされている光景を見てみたかったものだ。)

    先月半ばに公演が終わり、その後しばらくは、学校全体が興奮冷めやらない空気に包まれていた。1ヶ月が過ぎた現在、それが、子供たちにとって忘れられない一大イベントになっている。上の娘を含む7年生達にとって、卒業を記念するいい思い出になるだろう。子ども達の底知れない可能性を目の当たりにして、もっと子供たちを信じていいんだなあと、心から思った公演だった。
Hats off to the children!

Yasuko GarlickYasuko Garlick(ガーリック康子)

主に翻訳、通訳、チューターを生業とする2児の母。夫はカナダ人。
数カ国に滞在後、現在カナダ在住7年目。
只今、何か新しいビジネスを始めようと模索中。。



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