カナディアンライフ

カナディアンライフ働く母さん、カナダ子育て奮戦記 その29  By Yasuko Garlick(ガーリック康子)

この子、誰の子? 


この子、誰の子?

    移民の国カナダ。しばらく前まで、インディアン(注)と呼ばれていた「ファースト・ネーション(先住民)」の人たち以外、みんな移民。やって来た時期に差はあれ、ご先祖様や自分自身が他国から移住してきた。最初にやって来たのが、「大英帝国」として世界を牛耳っていたイギリス人と、こちらも勢力を誇っていたフランス人。聞こえは悪いが、ファースト・ネーションの土地を奪い取ったのである。その後、まずヨーロッパ、そして日本を含むアジアの国々から、海を渡ってどんどん人々が移住してきた。

    そんなカナダでは、「マルチカルチャリズム」を政府の方針のひとつに掲げている。民族は、各自の文化と同様に、他民族の文化をも尊重するべきだという方針で、日本語では「多文化主義」とか「文化多元主義」と呼ばれる。一応は「単一民族国」と言われている日本では、考えられない方針である。

    さて、しばらく前、地元のフリー紙を読んでいたら、ある女性が書いた本が紹介されていた。著者は、今はバンクーバーに住んでいるが、子ども時代を、オランダ人家庭の養女として主にオランダで過ごした。その頃からのことを、人種差別も含めて自伝的に書いている。彼女には成人した娘さんがいて、その娘さんが小さい頃、よく養女かと聞かれたそうだ。彼女自身は、もともと南アジア系で肌が浅黒く、娘さんは父親似で、青い目に白い肌をしているらしい。しかし、彼女曰く、色目が違うだけで、自分たちを白黒写真に撮ると「瓜二つ」だそうだ。

この子、誰の子?    この記事を読んでいて、私はあることを思い出した。それは、私たちがまだタイに住んでいた頃のこと。バンコクから少し離れた、シーラチャという、パイナップルと辛〜い辛いシーラチャ・ソースで有名な街に、友達親子と二泊三日の旅行に出掛けた。もう少し南にあるパタヤに比べると、親子で出掛けるには手頃な海沿いの街である。バンコクから2時間ほどバスに乗り、シーラチャに着いたら、宿泊先まで乗り合いのトラックに乗る。トラックといっても、大きめのピックアップトラックの後ろに、人が乗れるベンチのような席と屋根(?)が付いたような乗り物だ。

    そのトラックに乗り合わせた白人女性が、いきなり私に、子ども達は養子かと聞いてきた。二人は確か3歳と5歳で、髪は今よりもっと少なく、色もかなり薄かった。顔のパーツを見ると私にも似ているが、パッと見はお父さん似。何と不躾なとムッとしながらも、確かに私が産みましたよ、と答えてやり過ごした記憶がある。が、どうも引っかかる。この子達のお父さんはどこの人、というような聞き方もできたはずだ。大体、人の子どもが誰に似てようが、他人の知ったことではない。

    その後、しばらく考えた。同じシチュエーションで、もし私が白人だったら、こんな質問はされただろうか。この人が白人でなかったら、こんな質問はしただろうか。つわりと戦い、腰痛に悩まされ、臨月まで10ヶ月間、子どもをお腹で育んだ「母」にとって、こういう質問をされると、気分は複雑である。見た目が私と違う子ども達でなく、私のほうが違う目で見られた。自意識過剰と言われるかもしれないが、この女性に全く差別意識はなかっただろうか。

この子、誰の子?    日本では、自分や子どもが養子であることを大っぴらにしない傾向がある。養親が敢えて真実を伝えないから、出自を知らずに大きくなることもあるようだ。戸籍謄本を見る機会があって、初めて自分が養子であることを知った、という話も時々聞く。しかし、人種を越えた養子縁組が当たり前のカナダでは、敢えて隠すようなことでもないし、隠し切れるものでもない。自分の家族のことを話す時に、自然に話題に上るだけである。大体、実の親だからといって、子どもをちゃんと育てられるという保証はない。血が繋がっていなくても、見掛けが全然違っても、親子は親子、というのがこちらでの一般的な観念である。

    何だか取り留めのない話になってしまったが、一般的に人々が目立つことを避ける傾向にある日本では、人種を越えた養子縁組はまだまだ考えられない。それでも、国際結婚は増加傾向にあるので、その可能性がないとも言い切れない。
私の目の黒いうちは無理だろうが、日本にも、それが当たり前になる日が来るのだろうか。

注:インディアンという呼称。違法ではないが、今では差別的と看做されるため、徐々に使われなくなっている。代わりに、ファースト・ネーションとかアボリジニーという言葉が使われる。


Yasuko GarlickYasuko Garlick(ガーリック康子)

主に翻訳、通訳、チューターを生業とする2児の母。夫はカナダ人。
数カ国に滞在後、現在カナダ在住7年目。
只今、何か新しいビジネスを始めようと模索中。。



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