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  カナディアンライフ
カナディアンライフ働く母さん、カナダ子育て奮戦記 その41 By Yasuko Garlick(ガーリック康子)

出来事のタイミング(2)



出来事のタイミング

    去年の12月の初めに義母のお葬式が終わり、バンクーバー島から戻って来た週の半ば、義妹から夫に電話があった。お義母さんが亡くなってから丁度一ヶ月。その知らせは、とても信じられないものだった。義父が突然亡くなってしまったのだ。数日前に会ったばかりである。犬と一緒に散歩に出かけ、友達夫婦の家に寄って帰る途中に倒れた。友達夫婦の家を出てからそれほど歩いていなかったようで、すぐに救急車が呼ばれた。心肺蘇生措置が行われたが、その甲斐なく、そのまま息を引き取ったという。もともと心臓は悪かった。50代の半ばに、最初の心臓発作を起こしてから、何度か手術を受け、血管を拡張するステントを入れていた。それでも、わりと活動的な生活を送っていた。

    義母が亡くなった後、私たちは、身の回りのことも含め、その後の義父のことを心配した。特に、義妹はかなり心配していた。自分で家を建てたことがあるくらいなので、日曜大工的なことはお手の物だったが、基本的に料理はできない。掃除洗濯も義母の仕事だった。少し物忘れも目立ってきていた。暫くは、近くに住む義妹が週二回、掃除その他をしに行っていたが、それも長くは続けられない。一度は、義妹が、ヘルパーを雇ってはどうかという提案をしたが、聞く耳を持たなかった。見ず知らずの人が、家を出入りすることに抵抗はあったと思うが、それよりも、自分はまだ大丈夫という頭があったようだ。

    長く連れ添った夫婦のどちらが亡くなると、数ヶ月のうちに、残された配偶者も亡くなることは珍しくない。夫が先に亡くなった場合、妻はその後、結構長生きすることが多いらしい。夫の生前より自由になり、元気になるという。しかし、妻に先立たれた夫は、後を追うように、わりとすぐに亡くなる場合が多いという。

義父母の友人が言った。
“He’s died of a broken heart.”
常套的だが、本当だと思う。

出来事のタイミング    義母の時と同じ教会でお葬式が行われた頃には、クリスマスがもうそこまで来ていた。クリスマスには、一緒にディナーを食べる予定にしていたのに、状況が一転してしまった。それでも、予定通り、義父母の家で分担してディナーを作った。いつもならとっくに出ていたツリーを、自分たちで出して飾り付けた。暖炉の前にぶら下がったクリスマス・ストッキングも、ツリーの下に置かれたプレゼントも、いつもより数が少なかった。いつまで経ってもなかなか慣れてくれず、すぐ引っ掻く猫が、足にすり寄ってくる。いつもふたりと一緒に散歩に行っていた犬は、家の中を歩き回り、飼い主を捜す。そんな姿が遣る瀬なかった。

出来事のタイミング    こうして、短い間に義父母が続けて亡くなってしまった。銀行口座、保険、税金、定期購読、メンパーシップ…。たくさんある事務的な手続きを、義父が始めたばかりだった。それが、夫婦二人分になり、持ち物や家や車を含む資産を、全て処分しなくてはならなくなった。必要な書類のしまい場所がわからないものもあった。ペットの犬と猫には、新しい飼い主が必要だった。約半年経って、家のほうは家具以外、ほとんど処理が済んだ。家を売るため、不動産業者の人が見積もりもした。夏までには、正式に売りに出されるだろう。他の誰かの家になってしまえば、もう訪れることはなくなる。そう考えると、とても寂しい。

    私がこの世に生まれて、もうすぐ半世紀になる。同じ年代の人が亡くなるのが、珍しいことではなくなった。病気勝ちの人ではなく、ピンピンしていた人が、ポックリ逝ってしまうこともある。いくら元気でも、「その時」がいつ来るかは誰にもわからない。その時、周りが慌てないように、今からゆっくり身辺整理を始めようと思う。正式な遺言書も作ろうかと考えている。


Yasuko GarlickYasuko Garlick (ガーリック康子)

主に翻訳、通訳、チューターを生業とする2児(ティーンエイジャーとトゥィーン)の母。夫はカナダ人。 数カ国に滞在後、現在カナダ在住8年目に突入。
新しく始めたビジネスを軌道に乗せるため、邁進中。



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