<前回のあらすじ>
<前回のあらすじ> シンジ君はCO-OPプログラムに入れるだろうか?就労ビザを取る可能性はあるだろうか?シンジ君の意に反してデイビッドは成功例はたくさんあると言った。
下校時をとっくに過ぎ、だれもいない教室の静けさが一層増した。その教室に響くデイビッドの声がいままでになく権威をもって聞こえた。シンジ君は医者から診断を聞く患者のような気持ちでデイビッドの言葉に耳を傾けた。
成功例がたくさんあるからといって、だれでもできると言う意味じゃないよ。問題は本当にやり遂げる意思と実力があるかどうかなんだ。例えば僕の生徒だったM君は、英語はビギナーだった。そしてお金もあまりなかったために、途中で何回か日本に帰ってアルバイトしならければならなかった。でも、ついにやり通して今はトロントで働いているよ。
これを聞いたシンジ君は、目からウロコが落ちた気分だった。両親に大見得を切った手前、今すぐに自立することばかりを考えていたけれど、冷静に考えてみれば、自分の計画を実現させるには長い時間が要る。だから大きな視野にたってものを考えることが必要だ。
シンジ君が深呼吸するのを見ながら、デイビッドは続けた。
M君は、まずCO-OPプログラムを取り、そのあとで公立のカレッジに入って1年間のビジネスマネージメントコースを取った。公立のカレッジは入学後6ヶ月すれば働けるビザが下りるので、放課後コーヒーショップで働いて生活費をなんとか捻出した。もちろん、コースの一部として有給のCO-OPプログラムもあるので、CO-OPプログラムが始まったあとは問題なく自活することができた。
そして、公立カレッジのコースを修了すると 1年間の就労ビザを申請する許可がもらえるんだ。M君は、CO-OPプログラムで働いた職場で優秀な成績をあげ、就労ビザを利用してその職場で続行して働けることになった。今度は永住権をとるつもりだと言っていたよ。永住権を取るとなんでもできるからね。
デイビッドから聞く話はまるでシンジ君にとって遠い世界のことのようで、M君がとてつもなく偉い人のように思えた。 それを見通したかのように、デイビッドが言った。
M君は特別な能力があったわけではないよ。さっきも言った通り、問題は本当に初心を貫けるかどうかだけなんだ。同じような体験をして外国で成功している人は何十万といるはずだよ。
いままで、デイビッドの言うことを一言も漏らさないように神経を集中していたシンジ君は、デイビッドが一息ついたと同時に、自分にも全く自信がないわけではないことに気が付いた。シンジ君の頭のなかで、歯車がゆっくりと回転し出した。 デイビッドを真正面から見つめて、シンジ君は言った。
僕もM君のように段階を追ってトライしてみます。まずは、この学校のCO-OPプログラムを目指します。それには英語力を規定レベルまでアップしなければならないので、自分なりに特訓方法を考えてみます。
(つづく) |