特集−一面記事
  急成長を続けるBC州テレビゲーム産業の原点は?  

テレビゲームは、カナダでもソニーのプレイステーションや、任天堂のDSが大人気。日本製のゲームは世界中の消費者を引きつけてやまないが、北米産や韓国産のゲーム産業がここ数年、大きな成長をみせている。そのなかでも、特に注目を集めているのが、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州のテレビゲーム産業だ。1980年代に始まったBC州のゲーム産業は、90億ドルといわれる北米テレビゲーム市場を支える拠点の1つとなっており、今後5年間で3倍の市場成長を見込んでいるが、実はその発展の原点には、日本企業の投資があった。

テレビゲームには、ワールド・サイバーゲーム・インターナショナル・コンペティション(WCG)と呼ばれる世界大会がある。2001年に韓国で正式に開催された大会で、それ以後、回を重ねるごとに規模が拡大し、70ヵ国からゲームファンの代表者800人を集める大イベントとなっている。参加国の国内予選を経て、本大会であるWCGで5日間にわたりグランド・ファイナルを行うもので、国内予選の賞金総額は約130万円、WCGの賞金総額は4400万円にも及ぶ。昨年は10月にアメリカ・サンフランシスコで開催され、今年は11月にシンガポールでの開催が予定されているが、このグランド・ファイナルにノミネートされている8つの作品中、4つまでがBC州産のゲームだ。

それでは、なぜBC州でテレビゲーム産業がこれほどまでに発展したのだろうか。

その理由の1つは、米ドルに対してカナダドルが割安なため、コスト面で競争力があることだ。これは、近年BC州のバンクーバーやオンタリオ州のトロントがハリウッド・ノースと呼ばれ、ハリウッド映画の撮影と制作を盛んに行っているのと同じ状況である。メーカーにとって、制作地が同じ北米内にあり、高い技術を保ちつつコスト削減を図れることの魅力は大きい。また、州政府が、映画産業やゲーム産業など、州に経済成長をもたらす産業に対して、特別に税率を引き下げる配慮を行っていることも、メーカーを引き付ける原因の1つとなっている。

第2の理由は、地理的な条件だ。世界を代表するテレビゲームメーカーの本社は、アメリカの西海岸州であるカリフォルニア州とワシントン州にあり、日本のゲームメーカーのアメリカ支社も西海岸を中心に点在している。BC州もカナダの西海岸に位置し、文化的背景もカリフォルニアやワシントンによく似ており、コンピューター関連産業が発達している。

第3の理由として、1993年にコンピューター・グラフィック専門学校がバンクーバーに開校され、BC州のゲーム産業を形作る原点となったことが挙げられる。この学校は、デジペン・アプライド・コンピューター・グラフィックス・スクール(DigiPen Applied Computer Graphics School)と呼ばれ、2年間でプロを養成するものだったが、実は、北米に進出していた任天堂が、自社用の人材を養成する目的で設立した学校であった。
デジペンは、開校翌年には1200人もの応募者を集めるほどの人気を博したが、スペシャリスト養成には2年間では時間不足だと考えた任天堂は、1998年にアメリカのワシントン州・シアトルにキャンパスを移してデジペン工科大学(DigiPen Institute of Technology)と改名し、世界で初めてゲームソフト開発技術を教える4年生大学を設立した。

現在、デジペン工科大学は任天堂から独立した形をとっているが、キャンパスは任天堂アメリカ本社ビルの中にあり、任天堂から多数のコンピューターの寄贈を受けたり、デジペン工科大学の運営委員会に任天堂の代表者が在籍し、多数の学生をインターンシップで受け入れるなど、密接な関係を保っている。
デジペン工科大学の卒業生の95%は任天堂を始めとするテレビゲーム会社に就職しているが、同校の卒業生を欲しがる企業は多く、卒業前に引き抜かれる学生も多数おり、他の学校の卒業生よりも高い報酬で雇われている。

さて、デジペンがシアトルに移転した後も、BC州では、デジペンのコンピューター・グラフィックコースが地元の専門学校を始め大学に引き継がれ定着した。教科内容は、テレビゲーム技術開発・研究、3Dモデリング、アニメーション、ゲームデザイン、ゲームプログラミング、教育・社会・心理学部等のメディア研究、メディアリテラシー教育などと幅が広い。
さらにコンピューター・ゲームが社会に与える影響力が強いことから、大学の医療・教育研究機関などと協力して、テレビゲームの有効利用を考える娯楽目的でないゲーム(例:エデュティメント)の研究・開発も進んでいる。

現在、BC州にはコンピューター・ゲーム関連会社が150社あり、テレビゲーム産業に従事する人は2340人で、2005年末までに3000人に増えるとみられている (出展:New Media BC)。
BC州にはアメリカ企業の支社もあり、その代表的存在は本社をカリフォルニア州に置くエレクトロニック・アーツ(Electronic Arts:以下EA)だ。EAは、アメリカで売上No.1のテレビゲームメーカーで(昨年の総売上高は25億ドル)、テキサス、ロサンゼルス、オーランド、フロリダ、東京、ロンドンと世界中に支社をもち、カナダにはバンクーバーとモントリオールに支社をもっている。バンクーバー支社は4年前に開設されたが、当初600人だった従業員数が現在はEA総社員数の4分の1以上を占める1550人に増え、EAが販売するゲームの半分以上を制作する、まさにEAの心臓部となっている。なお、バンクーバー支社では常時60の新製品を開発しており、近い将来、従業員数を2200人に増員する予定となっている。

2005年WCGインターナショナル・コンペティションに出展されるカナダ生まれのノミネート作品:

「FIFA Soccer 2005」(EAカナダ)
世界中の350を越えるチームとリーグ、12000人以上のプレイヤーが公認登録されたサッカーゲーム。世界最高峰の選手たちのスピードとビジョンを意のままに操れる機能が特徴。

「Need For Speed」(EAカナダ)
実在する30以上のレーシング・カーを選択してスピードを競う。画面上に拡がるレースの世界に完全に引き込まれること間違いなし。

「Warhammer 40,000」(レリック・エンターテイメント)
人間の黄金期が崩れ、無秩序で混乱した世の中になって1万年が経った。現代人が古代人の逆襲に屈しないための戦火が宇宙のいたる所で交えられ、大量の虐殺、殺戮を繰り返している。世界一の「机上の戦争」をパソコンにもち込んだ作品。

「Halo2」(バンジー・スタジオ)
前作の「Halo」に続く戦闘ゲーム。地球人を死の恐怖から救えるか!